20251215
共生コミュニケーターって何だろう。どんなことをする人で、どんな役割があるんだろう。将来、どんな仕事やキャリアがあるんだろう。
そんな疑問や期待にこたえるために、共生コミュニケーター専攻では公開授業シリーズ「多様な人びとをつなぐ共生コミュニケーターの役割」を企画することにしました。
記念すべき第1回は12月8日(木)に「コミュニティ通訳論(基礎)」の授業で、NPO法人MICかながわで医療通訳ボランティアとして活動されている榊原圭美さんをお招きし、「コミュニティ通訳を通して学んでいること」というテーマでお話をうかがいました。
通訳というと「言語を訳すだけ」と思うかもしれませんが、実際には通訳派遣の依頼があってから当日までにさまざまな関連資料を読んだり、単語リストを作成したりなど入念な下準備が必要です。
また、医療通訳として活動するためには、MICかながわでは面接審査や研修の受講などを経てはじめて登録に至り、登録後も年3回の研修や勉強会など引き続きスキルアップのための研鑽を積まれているそうです。
医療通訳ボランティアは、ボランティアではあるもののプロフェッショナリズムや高い専門性も求められる大変な役割で、癌や流産・死産、障害の告知のような重篤なケースでは心が締めつけられるような思いをしながらも感情をコントロールしなければならなかったりするそうです。
一方で、妊婦健診に立ち会った際に双子であることがわかりハイタッチをして一緒に喜んだことや「先生に聞きたかったことが聞けた」「(通訳がいたから)長期間の闘病を乗り越えられた」など、嬉しかったことや通訳をやっていてよかったことなども具体的なエピソードと一緒にお聞きすることができました。
また、最後には通訳スタッフの人材不足や生活保障が不十分なため家族や周囲の理解がないと長期的な活動が難しいことなど、コミュニティ通訳が抱えている課題についても語っていただきました。
ここで、授業後に提出してもらった感想の一部をご紹介します。
「授業の中で紹介されていた『通訳は社会のつながりを作る役割でもある』という考え方が特に心に残りました。言葉が通じることで、日常のちょっとした不安が解消されたり、医療や教育の場面で本人が主体的に選択できるようになったりすることは、生活の質を大きく左右します。通訳者の存在が、外国ルーツの人たちの“生きづらさ”を減らし、社会参加につながっていくという視点は、とても新鮮でした。現場では人材不足や制度面の課題がまだ多く、サポート体制も十分ではないという話を聞き、これからの日本社会に必要な取り組みがまだたくさんあることも感じました」
「コミュニティ通訳は『余裕がないとできない』という言葉がとても心に残りました。経済的にも精神的にも、時間や体力の面でも、自分自身の状態が安定していないと続けるのが難しいという現実は、普段通訳という仕事に抱いていたイメージとは大きく違っていました。サポートする側でありながら、自分自身も支えを必要とする場面があるというのは、とてもリアルなお話だったと思います。授業を通して、コミュニティ通訳はただ『言語を繋ぐ』存在ではなく、人と人の間に立ち、その人の生活や感情に深く関わる仕事だということを強く実感しました。とても考えさせられる時間でした」
ご紹介した感想はごく一部ですが、学生たちからは現場の〈リアル〉を知ることができたという声が多くありました。
今回、公開授業シリーズという新しい企画の試みでしたが、当日は小ヶ谷千穂教授が担当されている「多文化・多言語社会を考える」を履修している学生もジョイントで参加してくださり、時間いっぱいまで質疑応答が続くなど盛況のうちに終えることができました。
今後もこの公開授業シリーズでは、共生コミュニケーターの役割や多文化共生に関わるさまざまな仕事、キャリアについて知ることができるよういろいろと企画していきたいと思っています!
最後になりますが、お忙しいなかご来校いただき、貴重な学びの機会をいただいた榊原様にあらためて心より感謝申し上げます。
グローバル教養学部心理コミュニケーション学科 准教授 髙橋誠一