20250212
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開港のまち横浜は、生糸や絹製品の輸出を中心とする世界交易で経済発展し、多くの外国人を引き寄せてきました。この国際色豊かな港町にキリスト教精神に基づき建学されたフェリス女学院は、日本女性の社会進出を推進し、女性解放運動が広がる1970年代にはフェリス生が横浜発ファッション「ハマトラ」を流行させました。そして21世紀、時代は推移し、行き過ぎたグローバル資本主義と地球環境の危機を前に、地域経済の活性化や環境に配慮した消費行動を求める声が高まり、ファッションを取り巻く状況は大きく変化しています。
2024年、横浜髙島屋、ジョイナス、岩崎学園横浜fカレッジ、フェリス女学院大学は、異国情緒豊かな横浜らしさと環境への配慮とを兼ねそろえた、新時代のファッションを提案する企画に取り組みました。地元のデパート、大学、専門学校の協力による本プロジェクトは、学生たちが普段は関わりのない企業の方々と、講義室の外で横浜の魅力や、地球環境とファッションが抱える課題について、率直な意見を交わす貴重な体験となりました。その成果は、11月24日に横浜駅で開催された「YOKOHAMA MIRAIにつなぐFASHION SHOW」に結実しました。革新のなかに伝統を取り入れた、新時代のサステナブルファッションを提案したこのファッションショーは、ファッション業界と学生から、環境にやさしい装いによる持続可能な未来という強いメッセージを発するものとなりました。
ファッションショー後に、学生たちは本企画の発起人である横浜髙島屋の宮田氏と対談し、プロジェクトを改めて振り返りました。以下の記事では、一緒にイベントをつくりあげた学生たちと宮田氏の想いが綴られています。ぜひお読みいただけますと幸いです。
国際交流学部(2025年度よりグローバル教養学部 国際社会学科)准教授 空 由佳子
「YOKOHAMA MIRAIにつなぐFASHION SHOW」を産学連携で開催
2024年11月24日、本学は横浜髙島屋、岩崎学園 横浜fカレッジと共に「YOKOHAMA MIRAIにつなぐFASHION SHOW」を横浜駅西口地下街ホテル前広場で開催しました。本イベントは、横浜髙島屋の65周年記念企画のフィナーレを飾る産学連携プロジェクトとして企画され、サステナブルファッションの可能性と魅力を地域と共に発信する場となりました。
当日は、「横浜髙島屋」と「ジョイナス」で取り扱う環境配慮型アパレル商品を活用し、約30種類のルックを提案しました。本学や横浜 fカレッジの学生がモデルやスタイリング、メイク、装飾を担当し、地球環境を意識したクリエイティブなスタイリングを披露しました。
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本イベントの最大の特徴は、環境負荷の軽減に向けた実践的な学びの場であると同時に、ファッションを通じて循環型社会を考えるきっかけを提供できた点です。学生たちは、企業が推進する最新のリサイクル技術やアップサイクルの取り組みを学びながら、デザインの実践や企画運営に積極的に参画しました。また、KAPOK JAPANやマッシュグループなど、業界をリードするアパレル企業との交流を通じて、未来のファッション産業を担う責任と可能性について理解を深めることができました。
さらに、ファッション業界が直面する課題についても考察する場となりました。大量生産・消費が主流の中、環境負荷を削減するために企業が取り組む「5R」(リデュース、リユース、リサイクル、リフューズ、リペア)やアップサイクル素材、エコ素材など、サステナ商材の利用を促進する背景で、アパレル業界が進めている循環型社会に向けたメッセージやストーリーを、ファッションショーを通じて発信しました。
本プロジェクトについて、実施主体である横浜髙島屋の宮田氏にお話を伺いました。企画の意図や手応え、今後の展望など、貴重なご意見をいただきましたので、その内容をご報告します。
対談
横浜髙島屋宮田氏 × フェリス女学院大学学生
2024年12月16日 フェリス女学院大学緑園キャンパス
●インタビュー:ファッションショーについて
学生: ファッションショーの反響について教えていただけますか?お客様の声や商品の購入につながったかも気になります。
宮田: はい、社内では「大成功」と評価されるほどの反響がありました。会場には1回あたり150から180名が集まり、2回で300名以上の方に見ていただけました。売り上げ面では、特別講義をしていただいたカポックさんの1週間限定ポップアップショップが、通常の1週間売上目標(約300万円)を大幅に上回る約500万円の売上を達成しました。特に最終日に売り上げが最大となるという珍しい傾向が見られ、ショーを見たお客様やSNS投稿の効果など、ファッションショーの影響が後半の売り上げに繋がったのではないかと感じています。また、取引先からも「参加してよかった」という声を多くいただいています。この成功を踏まえ、次回以降のイベントについては、学校との連携を続けながらも、同じ形にこだわらず新しいバージョンアップや企画を模索したいと考えています。
学生: サステナブルファッションに注目を集める方法は他にもあると思いますが、なぜファッションショーを選んだのですか?
宮田: ファッションショーは古典的な形式ですが、見ていて楽しく、着ている服が素敵に見える効果があると考えました。楽しい雰囲気の中でサステナブルな服を見せることで、ポジティブに受け止めてもらえると思い、あえてショー形式にこだわりました。また、プロモデルではなく学生が参加することで、より親しみやすく楽しい雰囲気をお客様に感じてもらい、サステナブルファッションの魅力を広げたかったからです。
学生: ファッションショーをするにあたって重視された点や工夫された点を教えていただけますか?
宮田: 一番重視したのは、参加した学生や先生方が「やってよかった」と思える経験を提供することです。私自身がやりたい企画に皆さんを巻き込んだ形ですが、ボランティアで参加いただく以上、学びや気づき、輪が広がる経験を提供することを心がけました。そのために、特別講義を通じて百貨店の仕事の面白さや、働くことの魅力を知ってもらえるよう工夫しました。また、専門学校生と大学生が交流し、普段触れ合う機会のないお互いの学びを知る場を提供することも重要視しました。このようなプロセスが、参加者にとって学びと発見の多い機会になったのではないかと思います。
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学生: 企画を進める中で、髙島屋が注力している環境配慮はどのような点ですか?
宮田: 髙島屋では、衣料品の回収を通年で行い、デニムやカシミヤを再生して新たな製品として販売するリサイクルサイクルを構築しています。さらに、繊維の再利用を重機素材など多用途に広げる取り組みも進めています。ファッションショーでも再生素材を用いた衣装を採用し、環境配慮を実践しています。
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●ディスカッション:若い世代がサステナブルファッションに参加する方法
学生: サステナブル素材の服って、若い世代にはまだ手が届きにくい印象があります。価格が高いことやデザインが限られていることが原因だと思うのですが、どう思われますか?
宮田: その通りですね。サステナブル素材の服が高価なのは、現状では生産工程が複雑でコストがかかるためです。しかし、原料がバージンマテリアルではないため、コストがかからないのではないかという意識もあり、余計に高く感じてしまっているのが現状です。そのため、アパレル産業がエコの取り組みを広げ、技術を共有することでコストを下げ、環境に良い影響を与えることが重要です。
学生: 小物やアクセサリーといった安価で取り入れやすいアイテムから普及させるのはどうでしょうか?
宮田: それは現実的な意見ですね。小物やアクセサリーは価格も手頃で、サステナブルファッションへの第一歩として最適だと思います。そういったアイテムを通じて「これは取り入れやすい」と感じてもらえると、少しずつ広がっていく可能性がありますね。
学生: でも、ただサステナブルだからと押し付けるだけでは広まらない気がします。若い世代が興味を持つようなイベントやSNSでの発信など、楽しさをもっと伝える仕組みが必要だと思います。
宮田: そうですね。実際、湘南の方ではビーチグラス(海で拾ったガラス片)を地域貨幣として活用する取り組みが行われており、地域の人々がビーチクリーンをしながら集めたビーチグラスをお金の代わりに使うことができる仕組みが注目されています。髙島屋でも、こういったビーチグラスを使ったアクセサリー作りのワークショップを取り入れる企画を考えています。
学生: ビーチグラスを使ったワークショップ、すごく面白そうです。若い世代がアクセサリーのワークショップに参加することで、自分たちが作ったものという愛着が湧き、それを発信したくなりそうです。
宮田: まさにそうです。学生がデザインや企画に関わることで、単なる消費者ではなくサステナブル活動の一部として関われるのは大きな魅力です。今回のファッションショーでも、学生の皆さんが楽しそうに参加する姿が、お客様にポジティブな印象を与え、サステナブルなアイテムへの興味を引き出すきっかけになったと思います。
学生:本日はどうもありがとうございました。
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フェリス女学院大学国際交流学部学生
青柳 美希
井上 茉音
室田 眞琴