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“おたより”

20220621

国際交流学部で学ぶ地域文化⑩
鬼才ヴァイオリニスト、クレーメルから考えるヨーロッパとロシア~ウクライナ危機に寄せて

©2008 Guus Krol

2022年6月、現代最高のヴァイオリニストのひとり、クレーメルが3年ぶりに来日公演しました。コンサートの幕開けを飾ったのは、ウクライナに捧げるレクイエム(ロボダ作)です。

クレーメルは音楽家として輝かしい経歴を持ちますが、その生い立ちや人生は単純ではありません。ラトヴィア(旧ソ連)の首都リガで生まれ育ち、祖父はスウェーデン人、父はホロコーストを生き延びたユダヤ人、母はドイツ人でした。パガニーニ国際コンクール、チャイコフスキー国際コンクールで優勝を飾った後、1980年に旧西ドイツに亡命しています。今回のコンサートでは、ユダヤ、旧ソ連、ウクライナの楽曲を通して、彼の複雑なルーツや、ヨーロッパとロシアの間で引き裂かれたウクライナへの思いが表現されました。

世界では、クレーメルのように複数のアイデンティティを持つ人は珍しくありません。陸続きのヨーロッパとロシアでは、時代によって国境線が変化し、また古くから相互の交流や人の移動が見られました。

クレーメルが旧ソ連で始めたクラシック音楽は、17世紀末のロシアで近代化の一環としてヨーロッパから取り入れられました。ロシアはチャイコフスキーをはじめとするクラシック作曲家を輩出しています。

また、クレーメルの出身地リガは、中世にドイツ、近代にポーランド、スウェーデン、ロシアといった、様々な国の支配を受けました。ロシア革命の際に独立しますが、1940年にソ連に併合されます。リガではラトヴィア人、ドイツ人、ロシア人、ユダヤ人が共存していましたが、1941年にナチ・ドイツが侵攻すると、ユダヤ人は迫害・虐殺されました。

クレーメルによって生きられた歴史に学び、世界の平和と人々の平穏な日常を守るために私たちに何ができるのか、一緒に考えていきましょう。

国際交流学部国際交流学科准教授 空由佳子

「バルト海の真珠」と言われる世界遺産の町リガ
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