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“おたより”

20220525

国際交流学部で学ぶ地域文化⑨システムキッチンの誕生に見る、ヨーロッパのライフスタイルの変化

住宅団地レーマーシュタット(2007年撮影)

システムキッチン(作り付けの台所セット)の発祥の地はドイツです。フランクフルト・キッチンとして知られる原型は、1926年、ウィーン出身の女性建築家マルガレーテ・シュッテ=リホツキィ(1886-1970)によって設計されました。当時フランクフルトでは、ドイツで最大規模の住宅団地建設プロジェクトが進行中でしたが、シュッテ=リホツキィもそのメンバーのひとりでした。

このプロジェクトはとくに二つの点で画期的といえます。第一には、平均的な人びとのために、日当たりがよく、衛生的で、交通の便のよい、手頃な家賃の住宅建設が計画されたことです。それ以前、労働者の劣悪な住環境は悪評高く、同時代のドイツの風刺画家ハインリヒ・ツィレは「斧同様、住居でも人殺しは可能である」という言葉を残しています。そこでプロジェクトではコストを抑えるために、空間の有効利用や住宅の類型化が求められ、システムキッチンが考案されることとなります。

フランクフルター・キッチン(2007年撮影)

もうひとつ注目すべきは、このような大プロジェクトに女性が参加したということです。シュッテ=リホツキィはドイツ語圏での女性建築家の第一世代に属します。たしかに女性が台所を建築というと、そこには明らかにジェンダーバイアスが見て取れます。しかしその一方で、働く女性たちの家事の軽減は当時喫緊の問題でした。女性建築家による考案と強調されることは、シュッテ=リホツキィは望んでいませんでしたが、多くの女性たちの声を反映した住居を作り出したいというのも彼女の願いでした。

国際交流学部国際交流学科教授 田丸理砂

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