03special

“よみもの”

20210521

音楽や演奏との関わり方を捉え直す電子楽器のデザイン

音楽学部 音楽芸術学科 中西宣人 准教授

図 1 POWDER BOX

皆さんは楽器と聞いてどんなものを想像しますか?
ピアノやヴァイオリンといったいわゆるアコースティック楽器を想像する人がほとんどではないでしょうか。あるいはエレキギターやベースといった電気楽器(振動などの物理的な運動を電気信号に変えて鳴らすもの)を想像する人もいるかも知れません。

では電子楽器(電子回路の発振等を用いて音を鳴らすもの)と言われるとどんなものを想像するでしょうか?鍵盤のついたシンセサイザーやエレクトーン、中には明和電機の「オタマトーン」を想像する人もいるでしょう。

アコースティック楽器と電子楽器の決定的な違いは何なのでしょうか。単純な比較は難しいのですが、物理的な運動や音響構造に依存するかどうかが大きな違いの一つと言えるでしょう。

アコースティック楽器は共鳴胴やネック、フレットなどの構造や構成要素があってはじめて楽器として成立します。一般的な奏法としては、ギターでは片方の手で弦をおさえ、もう一方の手でピックや指で弦を弾き、その音が共鳴胴で増幅され、楽器としての音が完成するわけです。(叩いたり弓で弾いたりといった奏法も用いられます)

それに対し電子楽器の場合は、入力装置であるセンサーやスイッチと、出力装置である電子音源やスピーカーさえあれば音を鳴らすことが可能です。極論、どんな形状でも入力装置と出力装置の関連付けさえできれば、楽器として成立させることができるのです。

このような電子楽器は、主に2つの可能性を秘めていると考えています。
まず1つ目として、今までにない演奏方法を提案できることです。例えば、肩からかけられるタイプのキーボード(ショルダーキーボードなど)は、ギターのような演奏方法をキーボーディストにもたらしました。

もう1つは、演奏という行為の裾野を広げられることです。入力装置と出力装置の関連付けを自由にデザインできるため、理論等の知識や演奏の訓練の有無、障害など、弾く人の様々な状況に合わせて楽器そのものをアレンジすることが可能です。
読譜ができず、演奏訓練を受けていない子どもや大人が、フレーズ構造、旋律輪郭、音高、リズム要素といった音楽次元を表現できる場合があるという報告もされており、自由なデザインが可能な電子楽器の力で、今まで楽器演奏をしてきた人々と、様々な理由で楽器演奏に参加できなかった人々とが、音楽表現を共有できるようになるかもしれません。

筆者は、後者の研究に挑戦しています。より多くの人々が音楽、演奏の楽しさを共有できるような新しい電子楽器の研究です。
次世代に残る楽器はほんの一握りかもしれませんが、
「音楽」や「演奏」という概念を捉え直す、とても楽しい挑戦です。
新しい楽器のデザイン、みなさんも挑戦してみませんか?

(2021年5月21日)

Photography by Shinsuke Yasui

図 1 POWDER BOX
ユーザが演奏にもちいるインタフェースを選択可能な電子楽器。
無線通信機能により、音階やリズムが自動で同期するため、誰でもセッションに参加できる。

図 2 The Cell Music Gear
タッチエンス社と共同開発した柔軟な3Dパッドを搭載したMIDIコントローラ。
楽器表面が柔らかい素材でできており、「叩く、押す、なぞる」など様々な行為で演奏できる。

図 3 Open Mesh Pad
特別支援学校での音楽の授業のために開発した電子打楽器。
叩くタイミングの提示、発音の有無などを教員が遠隔で操作できる。

上記楽器に関する詳細情報については個人ページを御覧ください。

■参考文献■
リタ・アイエロ『音楽の認知心理学』(誠信書房)

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