03special

“よみもの”

20151219

日本語観察という趣味(初期費用0円)

文学部 日本語日本文学科 勝田耕起 教授

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TVドラマ「チーム・バチスタ4 螺鈿迷宮」で、仲村トオル扮する白鳥圭輔が

★「用心した方がいいですよ。この碧翠院はあなたが思っているほど、一枚岩じゃないみたいだから。そのうち足元、すくわれちゃうかも」(第3話10’20’’頃)

と言っていました。

また、その半年前の「半沢直樹」でも、西大阪スチールの東田(宇梶剛士)の

★「ビビッてると、足元すくわれんぞ!」(4話、6’50’’頃)、

浅野支店長(石丸幹二)の

★「株で失敗したんだ・・・つい欲が出て・・・これを続ければ、マンションのローンだって早く返せる、子供たちに残せるものも増える-そんな気持ちに、足をすくわれた。一度失敗したら、転がり落ちるように損失は増えて行った。」(5話、41’15’’頃)

と出てくるように、「足(元)をすくわれる」は頻繁に使われる言葉のようです。

02

「足元をすくわれる」と「足をすくわれる」、皆さんはどちらを使いますか?
平成19(2007)年度の「国語に関する世論調査」でも世代ごとに調べられていて、結果は、ほぼ年齢に関わらず7割の人が「足元をすくわれる」を使うというものでした。URL:http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/h19/

この文化庁の調査では「卑劣なやり方で、失敗させられること」を何と言うかと訊いていて、結果では
◆「本来の言い方とされる(b)「足をすくわれる」を使うと答えた人は,どの年代でも1割弱から2割弱程度にとどまっている。」

と記述しています。

・「足をすくわれる」 =〈本来の言い方〉 だとすると、
・「足元をすくわれる」= 新しい言い方  ということでしょうか。

日本語学の一つのやり方として、こういう日常の言葉の観察と分析があります。例えば、世間でよく話題になる、いわゆる「ら抜き言葉」。「雪が降っても、8時半には学校に来られる」はOK、しかし「学校に来れる」 と文章に書いたらアウト。話し言葉ならみんな普通に使っているのに。コラレルは1000年前からある〈本来の言い方〉、それに対してコレルは新しい。コレルは中年も使っているけれども、「捨てる(ことが出来る)」をステレルなどと言おうものなら非難ごうごう。「足元をすくわれる」は新しいけど、あからさまなお咎めは無し。同じ新しいものでも、扱われ方は様々ですね。

03

〈本来の言い方〉って言われているけれども、それは一体いつからあるのでしょう。一方の〈新しい言い方〉はどのくらい最近なのか?発生に何年の差があれば「新旧」という認識になるのか?ドラマ「半沢直樹」の東田と浅野は同級生で、年齢差はありません。東田は計画倒産して金と愛人(壇蜜)とともに逃亡・潜伏する悪人、共犯の浅野は大手銀行のエリート支店長。ドラマの中で東田に「足元を・・・」を使わせ、浅野に「足を・・・」を使わせたところには、意味があるのかも。

そもそも二つの語句の意味が同じ、という前提で話を進めてきましたが、なんか微妙に違うような気もしますね。時期の問題、意味の問題など、詳しくはフェリス・ブックス21『国語辞典女子-今日から始める日本語研究』を覗いてみて下さい。

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研究が始まる瞬間

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